エンベロープはあまり知名度がないといいますか、似たようなインジケータにボリンジャーバンドがあるためどうしても登場機会が少なくなってしまう印象です。
あまり使われないということはインジケータとして優秀でないからなのかも知れませんが、使い方次第では勝率が高まる可能性もあるかと思います。
今回はこういった問題意識を念頭に、エンベロープがインジケータとして使えるものなのかどうかをバックテストにより検証してみたいと思います。
これからエンベロープを使ってトレードしようか迷われている方は、ぜひ参考にしてみてください。
- エンベロープを使ったトレードの勝率
- 最適なパラメータの組み合わせ
基本のおさらい
エンベロープとは、移動平均線を上下にそのまま移動させた線のことを指します。
形は移動平均線と変わらず、従ってボリンジャーバンドみたいに幅が広がったり狭まったりすることがありません。
計算式はシンプルですが、以下となります。
- 上側エンベロープ:移動平均線+移動平均線✕n%
- 下側エンベロープ:移動平均線−移動平均線✕n%
パラメータのnは乖離率や偏差率と呼ばれるものです。
例えば以下のサイトでは、25日移動平均線の2~3%がパラメータの目安と記載があります。
![](https://www.invast.jp/blogs/wp-content/uploads/2023/07/affccf87ce10e52fec45726e6a69f235-300x200.jpg)
以下のサイトも同様の記載です。
具体的なトレードにおける使い方ですが、専ら逆張りに使われるようです。
つまり上側エンベロープに接触した場合は売りでエントリー(買いを手仕舞い)し、下側エンベロープに接触した場合は買いエントリー(売りを手仕舞い)するという解釈かと思います。
ただしこれはあくまでセオリーであり、上側エンベロープで売りエントリーし、下側エンベロープでそれを手仕舞いしたとしても必ず利益が出るとは限りません。
以下がその一例です。左の緑丸で上側エンベロープに接触しています。セオリーですとここで売りエントリーを行います。一方、右側緑丸まで下側エンベロープの接触はなく、ここで手仕舞いを実施すると結果として損失が出てしまうことになります。
![](https://statistical-fx.com/wp-content/uploads/2024/11/56ec58f98239e51b8252ddb9bbe96404-1024x468.png)
利益が出たり損失が出たりとその時々で結果は異なるのでしょうが、インジケータそのものの有用性を評価するためには、この取引を続けた場合に期待値の意味で収益がプラスになるのかを見極める必要があります。
バックテストでそれを確認してみたいと思います。
検証条件
前章でエンベロープを使う上での課題に関して概観したところで、具体的な検証条件について説明していきたいと思います。
どんなトレードで検証するか?
前章で説明したように、下側エンベロープに接触で買い・上側エンベロープに接触で売りを繰り返すトレードでバックテストを行います。
入札ロットは固定とし(検証では0.1Lot)、次のエントリーが行われた際は前のポジションを手仕舞いします。所謂ドテンです。
下図がその様子の一例です。まず緑の丸で下側エンベロープに接触し、0.1Lotの買いポジションを保有します。次に紫で上側エンベロープに接触し、その際既にあった0.1Lotの買いポジションは決済し、新たに0.1Lotの売りポジションを保有します。これを繰り返します。
![](https://statistical-fx.com/wp-content/uploads/2024/11/cffd8a95cecaf986077c0aa73cd9f448-1024x468.png)
ここまで機械的なトレードをすることは基本ないでしょうが、仮に裁量トレードをするにしてもこのように基本的な使い方をした場合の検証結果は非常に重要と考えています。
というのも、もしこれによってパフォーマンスが絶望的であることがわかれば、他のインジケータと組み合わせて使おうが、あるいは裁量トレードをしようが、そこから期待値をプラスにひっくり返すことは困難であると考えられるからです。
パラメータの探索範囲は?
当サイト調べではありますが、エンベロープは日足で使われる場合が多く、移動平均線の期間は20日あるいは25日が一般的なようです。
また乖離率は2〜3%が目安になるようです。
移動平均線は基本的には単純移動平均線が用いられるようですが、今回は指数移動平均線と平滑移動平均線でも試してみたいと思います。新たな発見があるかも知れません。
よって、検証の組み合わせは以下となります。
- 移動平均線の期間:20日、25日
- 乖離率 :2%、2.5%、3%
- 移動平均線の種類:単純移動平均線、指数移動平均線、平滑移動平均線
検証結果
それでは実際に結果を見てみたいと思います。バックテストは以下の条件にて行いました。
通貨ペア | USD/JPY |
スプレッド | 0.3pips(0.3銭) |
検証期間 | 2013/1/1 ~ 2023/12/31 |
ポジション | 0.1Lot(10000通貨) |
資産 | 100万円 |
移動平均線期間 | 20日、25日 |
エンベロープ乖離率 | 2%、2.5%、3% |
単純移動平均線
括弧の左の数字はプロフィットファクタです。そのため1より大きければ期待値はプラスで、1未満であれば期待値はマイナスです。括弧の中の数字は取引回数です。
20日移動平均線 | 25日移動平均線 | |
乖離率2% | 1.17(52) | 1.25(54) |
乖離率2.5% | 1.14(32) | 1.04(32) |
乖離率3% | 1.04(20) | 1.04(24) |
プロフィットファクタはどれも1以上です。そういった意味では有益なインジケータなのかと考えられます。
一方で、日足でバックテストしたので当然と言えば当然なのですが、取引回数が少ないです。長期的にみてこの結果が保証されるのかと言われると難しいところがあります。
乖離率は小さい方が基本的にはいいみたいです。取引回数も多くなるので特に理由がなければ3%より2%を使用すべきでしょう。
移動平均線の期間は20日がいいのか25日がいいのかはなんとも言えない結果です。
指数移動平均線
表の見方は単純移動平均線と同じです。
20日移動平均線 | 25日移動平均線 | |
乖離率2% | 1.22(36) | 1.36(40) |
乖離率2.5% | 0.55(14) | 0.62(16) |
乖離率3% | 0.54(10) | 0.54(10) |
こちらも乖離率は小さい方がよく、むしろ2%でない限りプロフィットファクターは1以上にはならないということかと思います。
移動平均線の期間は20日より25日がいいようです。
平滑移動平均線
表の見方は単純移動平均線と同様です。
20日移動平均線 | 25日移動平均線 | |
乖離率2% | 1.16(40) | 0.98(36) |
乖離率2.5% | 0.40(16) | 0.41(16) |
乖離率3% | 0.22(12) | 0.07(10) |
こちらも乖離率は2%が推奨されます。全体的にプロフィットファクターが小さいため、単純移動平均線を使ったほうが無難かと思います。
まとめ
本記事では、エンベロープで勝てるのかをバックテストを用いて検証しました。
以下に結論となる重要なポイントを示します。
- 乖離率(偏差率)は3%より2%がよい
- 平滑移動平均線より、単純移動平均線や指数移動平均線を用いるのがよい
- 指数移動平均線、乖離率2%、移動平均線期間25日の場合で最もパフォーマンスが高まり、プロフィットファクターは1.36となる
- ただし、取引回数が少ないため使用には注意が必要(統計的なハードエビデンスが得られているわけではない)
以上、最後まで読んでいただきありがとうございました。