「FXはゼロサムゲームだから勝てない。むしろ手数料を入れるとマイナスサムゲームだから辞めておいた方がいい。」
このような意見を聞いたことがあります。
株式投資が広くプラスサムゲームとして認められており、NISAやiDeCoなど普及に向けた政府の後押しがある一方、FXはどこか見放されている印象です。
私は「FXはゼロサムゲームでない」と証明したい訳ではありません。かといってどっちかわからないまま無下に批判するのも良くないと思います。
そこで今回は、「FXはゼロサムゲームなのか?」に関して調査を行い、その結果をまとめてみようと思います。
ゼロサムゲームとは?
まずWikipediaの定義は以下の通りとなります。
複数の人が相互に影響しあう状況の中で、全員の利得の総和が常にゼロになること、またはその状況を言う。
(中略)
囲碁、将棋、オセロなどの二人対戦型のゲームは勝ちを+1、負けを-1、引き分けを0とすれば、ゼロ和ゲームに該当する。競馬・パチンコなどの賭博は、敗者から集めた資金を勝者で分け合うので、ゼロ和ゲームである(参加費を取る主催者と、主催者に物資や作品を販売する者は常に勝者)。また、外国為替取引(FX)もゼロ和ゲームである(ただし、勝者が所得税を課される場合、徴税者も勝者)。
「ゼロ和」『Wikipedia』(最終更新 2021年12月17日 13:07)
はい。書いてますね。「FXはゼロサムゲーム」だと。
まあWikipediaの意見が必ずしも正しいとは限らないので、この段階では当時の執筆者にとってはそういう考えだったというところまでで留めるべきかと思います。
要は上記の定義からすると、ゼロサムゲームとは全員の利得の総和が常にゼロになることを指しているのだと考えられます。
ゼロサムゲームの代表例として私が最もよく聞くのは麻雀でしょうか。雀荘に料金を払うでなく、友人宅に集まってただ遊ぶのであれば、これはゼロサムゲームとなります。
またこれとは別に、プラスサムゲーム、マイナスサムゲームというものもあります。それぞれ以下のような説明かと思います。
- プラスサムゲーム:全員の利得の総和が常にプラスになること。代表例は株式投資など(キャピタルゲインはゼロサムだが、株主配当が入るからプラスサムになる)
- マイナスサムゲーム:全員の利得の総和が常にマイナスになること。代表例は競馬・パチンコなど(胴元をプレイヤーと見なさなければ還元率は100%を下回るため)
株式投資が多くの場合プラスサムゲームと評価される一方で、FXはマイナスサムゲームであるという評価が一般的のようです。
例えば、以下のサイトでそのような考え方に触れられています。
あるいはこちら
これら以外にも調べると色々出て来ますが、簡単にまとめると以下のような理由からでしょうか。
- スプレッドやスリッページがかかる
- スワップポイントがロングとショートで合計するとマイナスだから
- 税金がかかる
どれもご尤もな意見でしょう。1と3に関しては個々人のプレイヤーで切り取っても明確にマイナスですし、2に関しては同じFX会社で両建てするとマイナスとなるのが普通なので、やはり全プレイヤーで合計すればマイナスサムゲームという結論でいいのかなと思います。
一方で、FXはプラスサムゲームであるとの論評は今のところ見つかっていません。相当頑張って調査しましたが、文字通り一つもなく、やはり大多数の意見がマイナスサムゲームとのことです。
ただそれとは別に、「そもそもFXはゼロサムゲームではない」という面白い意見が見つかりました。これは上記の「FXはマイナスサムゲーム」であるという主張とは全くの別物であり、実需取引を含めると必ずしもお金の奪い合いにはなっていないとの主張です。
FXはそもそもゼロサムゲームでない?
参考サイトは以下2つです。
後者のトヨタ自動車の例は非常にわかりやすいです。
例えば私が1ドル100円でロングポジションを持ったとしましょう。この時、誰か(Aさん)が100円で1ドルを私に売ったことになります。次に為替が変動し、1ドル110円になったとしましょう。私がロングポジションを決済すれば、10円得をします。この時、誰か(Bさん)が1ドルを110円で私から買ったことになります。
板のないFXと言えども、インターバンク市場に目を向ければ必ず買い手と売り手がいます。この例だと100円で1ドルを私に売った「Aさん」と、1ドルを110円で私から買った「Bさん」がいます。
彼らが私と同じように、それぞれショートポジション/ロングポジションとして持っていれば、いずれそれらを決済しなければなりません。しかし、単にその時その通貨が必要であれば事情が異なります。
例えばAさんはアメリカから日本に旅行に来るためにドルを売って円を買ったかも知れません。Bさんはアメリカの駐在員に給与を支払うため円を売ってドルを買ったかも知れません。
AさんBさんは単に外貨が欲しかっただけであり、為替変動を用いて利益を得ようとした訳ではありません。このような取引を実需取引というようです。そして重要なのはAさんBさんが為替変動による損失を被っていないという点です。
極端な話、為替変動によって利益を得ようとする投機筋全員が得をし、その反対売買が全て実需取引で賄われていれば、FXはゼロサムゲームはおろかプラスサムゲームにすら成り得ます。
後は、このようなケースに当てはまる可能性がどれぐらいあるのかというところの検証でしょうか。
FXはプラスサムゲームに成り得るか?
まず最初の関心事として、実需取引の割合が全体の何パーセントなのか、という点があるかと思います。
何故なら、もし実需取引の割合が数パーセントと小さい場合、為替の変動は実需取引でない「投機取引」でほぼ決まってしまい、そうするとプラスサムゲームに成り得る可能性がかなり低くなってしまうからです。
逆に実需取引の割合が大きいと、おそらくファンダメンタルズ分析などをうまく駆使することで、投機取引を行うプレイヤー集合がプラスサムゲームを実現することが可能になると考えられます。
実需取引の割合はおそらく1~2割
そしてそのモチベーションで実需取引の割合を調査してみましたが、おそらく全体の1~2割ほどのようです。
例えば以下2つのリンクにそのような説明があります。
これら以外にも色々調べましたが、やはり1~2割という見解が大勢のようです。
しかし残念なことに、どの情報源もその客観的な根拠が見つかりませんでした。そもそも実需取引と投機取引の基準が明確でなく、貿易統計などからおおよその値を推計するしかないようです。
そこで本記事のバリューを無理やり出すために、実需取引の割合を自力で推計してみようと思います。
実需取引の割合を自力で推計
まず以下のサイトを参考にしますと、実需取引というのは経常取引と資本取引に分けられるとのことです。また、資本取引はさらに直接投資と証券投資とその他投資に分けられます。
そうしますと、以下が成り立つかと思います。
- 実需取引の割合=(①経常取引+②直接投資+③証券投資+④その他投資)÷⑤出来高
まず①の経常取引ですが、これは経常収支で推測されます。以下のサイトに因りますとここ数年は概ね10兆円ほどのようです。
次に②の直接投資です。以下の財務省のサイトで公表されています。ここ数年は(対外で)20兆円ほどかと思います。
そして③の証券投資です。上と同じく財務省のサイトで公表されており、ここ数年は(対外で)20兆円ほどです。
④のその他投資ですが、データが見つからなかったため今回は割愛します(どなたかご存じであれば教えてください)。
最後、⑤の出来高ですが、まず通貨ペアに依存しない全出来高は、以下のサイトによると6367兆円です。
そして、この中で日本円が占める割合が以下のサイトによると10%程度のようです。
つまり日本円のFX市場における出来高はおよそ600兆円と推測されます。
これら①~⑤を上記の計算式に当てはめますと、実需取引の割合はおよそ8.3%と推測されます。
- 8.3%=(10兆円+20兆円+20兆円+0円)÷600兆円
もっとも、④のその他投資にある程度数字が入ることが予想されます。そうしますと概算1割ほどと思います。
FXはやはり概ねマイナスサムゲームか
実需取引は1~2割あるとはいえ、逆に言えば8~9割が投機取引であるため、市場の8~9割は(スプレッドなどの影響で)マイナスサムゲームで動いているということになるかと思います。
また1~2割の実需取引が、投機取引をするプレイヤーにとってプラスサムゲームとなるような都合の良い取引をしているとは限りません。
つまりプラスサムゲームであると信じて取引をするというのは、ファンダメンタルズ分析などを使って市場全体の1~2割の実需取引の傾向を捉えて、それが投機取引にとって都合の良い取引だと判断して取引を行うことを意味するのかと思います。そしてその分のプラスはスプレッドやスリッページに抗うほど大きくなければいけません。
結構厳しい闘いに思えますがいかがでしょうか?
まとめ
本記事では、FXはゼロサムゲームなのかを調査しました。以下に結論となる重要なポイントを示します。
政府による後押しを期待するのは難しいでしょうね。
以上、最後まで読んでいただきありがとうございました。