概要
今回は時間的に連続する二つのローソク足に関して、その増減(陽線か陰線か)の独立性を検証してみたいと思います。
もし検定の結果独立性が認められれば、相場はランダムウォークに近い動きをしていることになり、少なくとも直近のローソク足を用いたテクニカル分析が無意味となってしまう可能性を示唆します。
独立でなければ、陰線と陽線が連続するか反転するかどちらかの傾向が強いことがわかり、それに基づいたトレードをすることによって優位性のあるポジションの確保が可能になります。
現在トレード手法を比較検討しており、特に順張りと逆張りどちらを採用するかで迷われている方は、ご参考にしていただければと思います。
独立性検定
繰り返しになりますが、時間的に連続する二つのローソク足(それぞれ前ローソク足と次ローソク足と呼称する)に関して、次ローソク足が陽線となるか陰線となるかが前ローソク足の挙動に依存して決まるか否かを独立性検定で確認してみたいと思います。
つまり帰無仮説は以下です。
帰無仮説:連続する二つのローソク足がそれぞれ陽線か陰線かは独立である
検定の手順ですが、まず連続する二つのローソク足に関して、陽線→陽線、陽線→陰線、陰線→陽線、陰線→陰線の4つのパターンに該当した回数をそれぞれ集計し、集計した値(実測値)から期待度数を算出します。
下図はイメージで、$Xi$が実測値、$Yi$が期待度数です($i=1,2,3,4$)。
実測値:期待度数 | 次ローソク足 / 陽線 | 次ローソク足 / 陰線 | 計 |
前ローソク足 / 陽線 | $X1$:$Y1$ | $X2$:$Y2$ | $X1+X2$ |
前ローソク足 / 陰線 | $X3$:$Y3$ | $X4$:$Y4$ | $X3+X4$ |
計 | $X1+X3$ | $X2+X4$ | $X1+X2+X3+X4$ |
期待度数の算出は以下の通りです。
$$Y1=\frac{(X1+X2)\times(X1+X3)}{X1+X2+X3+X4}$$
$$Y2=\frac{(X1+X2) \times (X2+X4)}{X1+X2+X3+X4}$$
$$Y3=\frac{(X3+X4) \times (X1+X3)}{X1+X2+X3+X4}$$
$$Y4=\frac{(X3+X4) \times (X2+X4)}{X1+X2+X3+X4}$$
そして検定統計量を以下のように設定し$\chi^2$検定を行います。
$$\chi^2=\sum_{i=1}^4\frac{(Xi-Yi)^2}{Yi}$$
また帰無仮説が棄却された場合、$Xi$と$Yi$の大小によって、陽線あるいは陰線が連続するのか反転するのかどちらの可能性が高いか、概ねの傾向は掴めそうです(※正確には独立性検定では個々の$Xi$と$Yi$の差が有意かまではわからない)。
詳細な検証条件を以下に示します。
検証条件
- 連続する二つのローソク足(前ローソク足と次ローソク足)に関して、陽線→陽線、陽線→陰線、陰線→陽線、陰線→陰線の4つのパターンに該当する回数を集計
- ただし、始値と終値が同じ値となるローソク足が、前ローソク足あるいは次ローソク足にある場合は集計対象から外す
- 集計結果に基づき$\chi^2$検定(有意水準=0.01)
- 通貨ペアはUSD/JPY
- 検証期間は2013/1/1~2020/12/31(8年間)
- 15分足、1時間足、4時間足、日足それぞれの時間足で検証
結果
下表は15分足。
p値は$2.2\times10^{-16}$以下となり、帰無仮説棄却です(独立でない)。
陽線→陰線あるいは陰線→陽線のように、反転するパターンの実測値が期待度数よりも大きいため、逆張り戦略が有効かもしれません。
実測値:期待度数 | 次ローソク足 / 陽線 | 次ローソク足 / 陰線 | 計 |
前ローソク足 / 陽線 | 47360:49286 | 50241:48315 | 97601 |
前ローソク足 / 陰線 | 50304:48378 | 45498:47424 | 95802 |
計 | 97664 | 95739 | 193403 |
下表は1時間足。
p値はまたしても$2.2\times10^{-16}$ 以下となり、帰無仮説棄却です(独立でない)。
15分足同様、逆張り戦略が有効と思います。
実測値:期待度数 | 次ローソク足 / 陽線 | 次ローソク足 / 陰線 | 計 |
前ローソク足 / 陽線 | 12127:12650 | 12773:12250 | 24900 |
前ローソク足 / 陰線 | 12760:12237 | 11328:11851 | 24088 |
計 | 24887 | 24101 | 48988 |
下表は4時間足。
p値は0.003994のため、帰無仮説棄却です(独立でない)。
15分足同様、逆張り戦略が有効と思います。
実測値:期待度数 | 次ローソク足 / 陽線 | 次ローソク足 / 陰線 | 計 |
前ローソク足 / 陽線 | 3207:3288 | 3203:3122 | 6410 |
前ローソク足 / 陰線 | 3200:3119 | 2881:2962 | 6081 |
計 | 6407 | 6084 | 12491 |
下表は日足。
p値は0.3269のため、帰無仮説は棄却されません(独立でないとは言えない)。
こちらも15分足同様に、 反転するパターンの実測値が期待度数よりも大きいようです。
実測値:期待度数 | 次ローソク足 / 陽線 | 次ローソク足 / 陰線 | 計 |
前ローソク足 / 陽線 | 519:531 | 563:551 | 1082 |
前ローソク足 / 陰線 | 562:550 | 559:571 | 1121 |
計 | 1081 | 1122 | 2203 |
以上が独立性検定の結果です。
まとめると、日足以外の時間足では独立とは認められず、陽線→陰線あるいは陰線→陽線のように反転する可能性が高い傾向があるため、逆張り戦略が有効。
また、これも日足以外で、前ローソク足を使って次ローソク足の挙動を分析することは有効である、というのが今回結果かと思います。
さて、私は独立性検定を今回初めてしてみたのですが、この結果にかなり違和感があります。
というのも時間足が短くなり、ローソク足のサンプル数が多くなればなるほど、帰無仮説は棄却されやすくなるのではないか、という点です。
少なくとも、日足であれその他の時間足であれ、陽線あるいは陰線がどちらかからどちらかへ反転する頻度が期待度数より高いことに変わりはないにも関わらず、検定の結果が変わってしまっています。
調べてわかったことですが、この問題は検定全般に関して言えることで、以前より指摘されているようです。
例えば以下の文献でそれが指摘されており、一般化$\chi^2$検定という別の方法が提案されています。
保田時男:大規模サンプルに対する一般化$\chi^2$適合度検定ーJGSSデータへの適用例ー, JGSS研究論文集, No.3, pp-175-186, 2004.
というわけで今回結果は、間違いというわけではないですが、あくまで数ある結論の内の一つに過ぎないという理解で留めておくのがいいと思います。